樹上生活

木の上に暮らしている

夢日記-180315

10代の頃からずっと憧れていた歌手の所属事務所で働くことになった私。入社してすぐの全国ツアーで、その歌手の正体を知ってしまう。
彼はすでに死んでいた。即身仏のように三角座りで乾燥して縮んだミイラだった。
死んで7年は経っていそうなコンディションなのだが、間違いなくツアーはできるのだった。

夜の帳が下りるころ、コンサートホールには何十人ものもぎり嬢。音響さんのチェックの声。照明さん渾身のライトも要所要所のテストがくるくると。ときどきストロボ。ステージは空。
すべてのチェックが本人不在のまま終了し、緞帳がおりると事務所の女社長はコンサートホールのメインブレーカーを落とした。機材は完璧なセッティングで通電したままだ。まずい高額な機材が一瞬にして壊れると思った瞬間、施設全体に響くバンッッッ!!!! という大きな音で私は気を失った。

意識が戻ると楽屋裏の長椅子に寝かされていた。天井に据え付けられたブラウン管モニタには現在のステージがミュートで映し出されていた。ステージからここまで、音楽も漏れ聞こえている。コンサートはすでに始まっていた。ステージには全盛期の姿と変わらぬあの歌手がいた。
「・・・あ、気がついた?」
絶句する私を見て、女社長はキーキッキッキキキキ!! と高笑いしている。
「やつはすでに死んでいるってアンタが告発したとしても、観衆は紅白もラジオもコンサートも生で見てるんだ、信じるわけないだろ。アンタきちがい扱いされるだけだよ。」
前任者がおかしくなって辞めてったって、そういうことだったんだ。

今夜もコンサートは大成功だった。
アンコールのあと、これからライブレポを書くのであろう記者たちの取材対応に追われていて、私は彼がミイラに戻る瞬間を確かめることはできなかった。彼はジュラルミン製の巨大ケースの中に戻っていた。
この箱が音響機材に紛れて全国を回っていることは間違いない。でも常識的に考えたら、この大勢のスタッフの中にちゃんと生きてる影武者がいるんだろうと私は自分の中でつじつまを合わせることができていた。

翌週末、次の地域の公演でまたブレーカーが落とされ、
ジュラルミン製の巨大スーツケースが
コトコトガタガタと震えだすのを見るまでは。






※本当はもうひとつシーンがあるのですが、起きてしばらくしたらどこにそのシーンが入っていたのか忘れたので割愛しました。起きたとき見てたのがこれだと思うからたぶん一番最後なんだけど。下記に書いておきます。

埃っぽく乾燥した地域のぼろぼろの長距離列車に乗って、キャンパス地のトートバックに、むき出しのまま入れられた彼を運ぶシーン。(彼のいつも入っているジュラルミンケースはどこいったんだろう)
トートバックだから蓋が閉められなくて、乾燥してビーフジャーキーみたいに縮んで毛も抜けてしまった彼の頭頂部と膝小僧を上からじっと見ていた。
彼のことはとても好きだなぁ。
このまま彼を持って逃げたら、事務所の女社長に地の果てまで追われて、彼取り上げられて私殺されるんだろうな──。